大阪地方裁判所 昭和53年(わ)5936号 判決 1981年9月30日
主文
被告人を懲役六月に処する。
この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、大阪市住之江区住之江二丁目五番二四号に事務所を設け、昭和産業の名称で産業廃棄物処理を営んでいるものであるが、法定の除外事由がないのに、
第一 大阪府大東市長、東大阪市長、守口市長、豊中市長、兵庫県尼崎市長の許可を受けないで別紙(一)一般廃棄物収集一覧表記載のとおり、昭和五三年一一月九日から同月一五日までの間前後一一回にわたり継続して一般廃棄物の処理計画区域内である大東市深野北五丁目二九六番地昭和産業廃棄物処理場ほか四か所において、吉武建設ほか九名から、処分の委託を受けた一般廃棄物である古木材、板切れ、木くず、ダンボール、ベニヤ板等の廃材合計約二〇・五トンを有償で収集し
第二 大東市長の許可を受けないで、別紙(二)一般廃棄物処分一覧表記載のとおり、同年一一月一〇日午前一〇時二五分ころから同月一七日午後二時四五分ころまでの間、前段二二回にわたり、継続して大東市深野北五丁目二九六番地昭和産業廃棄物処分場において、一般廃棄物である古木材、板切れ、木くず、ダンボール、ベニヤ板等の廃材合計約七四・五トンを焼却して処分し
もつて、一般廃棄物の収集及び処分を業として行なつたものである。
(証拠の標目)(省略)
(法令の適用)
被告人の判示所為は包括して廃棄物の処理及び清掃に関する法律七条一項本文二五条一号に該当するので所定刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で被告人を懲役六月に処し、情状により刑法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により、全部被告人に負担させることとする。
(弁護人の主張に対する判断)
一、公訴権濫用の主張について、
弁護人は、被告人の所為が付近住民に迷惑を与えた点は責められるべきだが、許可行政及びゴミ処理行政の実情に照らし、行政取締法規違反として、刑罰をもつて対することは妥当性を欠き公訴権の濫用である旨主張する。
弁護人提出の各証拠並びに鑑定人小髙剛作成の鑑定書によれば、従来廃棄物の処理に関する行政当局の対応は、必らずしも統一的かつ画一的に行なわれていなかつたと認められるが、被告人は、本件と同種事案で昭和五三年六月二三日、大阪簡易裁判所において、有罪(罰金刑)の裁判を受け、さらに行政当局である大阪府生活環境部から、昭和五三年五月二六日付でいわゆる行政指導を受けていることも認められる。
しかるに被告人は、右有罪の裁判や行政指導を意に介することなく本件事案を遂行したもので、かような反規範的、反秩序的な行状に対しては、刑罰をもつて対処することも止むことを得ざるものであり、本件公訴は勿論、本件公訴に至る過程における身柄拘束もまた妥当性を欠くものとはいえない。かくてこの点に関する弁護人の主張は採用できない。
なお弁護人は、被告人の本件収集処分した対象である建築廃材が、産業廃棄物であつて一般廃棄物ではない旨主張し、鑑定人小髙剛作成の鑑定書も、この見解に立脚する学説であることが認められるが、この点に関しては、すでに幾多の司法判断が示されており当裁判所も判示のとおり一般廃棄物と解するを相当とするので、弁護人の主張は採用しない。
二、憲法三一条違反の主張について、
弁護人は被告人の収集処分の目的物が一般廃棄物に該当するか産業廃棄物に該当するかの議論はおくとしても、工作物の除去に伴つて生ずる廃木材等が一般廃棄物に該当するとの断定はきわめて困難な問題であり、現に大阪市をはじめ有力自治体においても令一条九号の建設廃材と解釈して運用がなされている。一般に「ある刑罰法規があいまい不明確のゆえに憲法三一条に違反するものと認めるべきかどうかは通常の判断能力を有する一般人の理解において具体的場合に当該行為が、その適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによつてこれを決定すべきである(最高裁昭和五〇年九月一〇日徳島市公安条例事件についての大法廷判決)」ところ、解釈も運用も各自治体において、また厚生省においてすらバラバラの廃木材等については令一条九号の基準が不明確であつて、これが一般廃棄物に該当するとして刑罰を適用するのは憲法三一条に違反し、被告人は無罪である旨主張する。
しかし、先述の如くすでに司法判断においてその解釈については明確な指針が与えられており、学説ないしは行政の一部にこれと異る意見があることをもつて、直ちに構成要件が不明確で憲法三一条に違反するものとは断定できない。
よつて主文のとおり判決する。